
既存のプリンティング事業を主軸としつつ、常に新しい事業領域への挑戦を続けるリコー。社内起業家育成とスタートアップとの共創による統合型アクセラレーションプログラム「TRIBUS」(トライバス)を発足させ、新たな事業創造を目指しています。今回は、TRIBUSの運営を担う森久様、生澤様、小柳様にお話を伺いました。

■株式会社リコー 未来デザインセンター TRIBUS推進室 事業創造プロデューサー 森久泰二郎様
複写機制御システム開発、民生用デジタルカメラ開発を経て、産業機器に関する新規事業を立ち上げ。TRIBUSプログラム全体運営と共に、各種セミナーでの講演や大学でのアントレプレナーシップ教育を行う。
ーミッションや役割についてお聞かせください。
森久様:
私たちは「TRIBUS」という統合型アクセラレーションプログラムを運営しております。
TRIBUSは、社内起業家の発掘・育成を行うプログラムと、スタートアップとの共創によってイノベーション創出を行うプログラムの両方を同時に行います。
社内外からイノベーターを募り、リコーのリソースを活用しイノベーションにつなげるアクセラレーションプロジェクトです。
ーTRIBUSの発足経緯について教えてください。
森久様:
発足は2019年になるのですが、背景には大きく3つのポイントがあります。
1点目は、会社として新しい事業を創出していていかなければならないという点です。
既存の複合機を主軸にした事業ではなく、新しい領域に挑戦するという経営陣の意思決定がありました。
2点目は、社内の技術開発・研究開発を事業に結びつけるのに課題感があった点です。
これをスタートアップとの協業によって、サービス化・事業化まで結びつけられないかと考えていました。
3点目は、社員の挑戦する機会を増やすという点です。
役員が日本中で働く様々なリコー社員の話を聞く場があり、その中で「挑戦する場が欲しい」「既存の事業プロセスに縛られては新しいことができない」という意見が多く出てきました。
上記の3つの背景から、TRIBUSという統合型プログラムは発足しました。
ーTRIBUSの目的は「新規事業の創出」になるのでしょうか?
森久様:
おっしゃる通りです。
目的はシンプルに「事業創造・事業創出」になります。
その目的を追いかける副次的な効果として、社内起業家人材の発掘や育成、社内における文化醸成があると考えています。

ー先ほど「研究開発がサービス化に結びづけに課題感がある」とお話がありましたが、具体的にはどのような課題だったのでしょうか?
森久様:
研究所の技術をサービス化したものもあったのですが、様々な事業部門が自前主義でサービスを作ることに限界を感じていました。
変化の激しいこの時代においては、スタートアップと協業していかないと対応できないという危機感がありました。
プログラム7年目の現在では、リコーの事業部門にとどまらず、販売機能を担うリコージャパンなど複数のグループ会社からもスタートアップ共創の要望があがるようになってきました。
ー統合型プログラムという形は珍しい取り組みだと思うのですが、予期していなかったことはありましたか?
森久様:
予期せぬメリットで言うと、本プログラムを通じて他社のCVCや事業会社の方々とも出会えたことです。
自社の様々なアセットを管理している他社の担当者とのコネクションもできるので、スタートアップの協業だけではない、他の大企業との実証検証や協業連携の可能性も広がっています。

■株式会社リコー 未来デザインセンター TRIBUS推進室 生澤 希様
プリンティング事業領域における業績管理やプロセス改革などの業務を経て、複合機の商品企画および事業戦略立案に従事。2020年にTRIBUSプログラムのカタリスト(スタートアップ企業伴走役)を担当し、2022年から事務局として活動。
生澤様:
TRIBUSでは当社の社員が様々な立場からプログラムに関わっていますが、参加した社員がスタートアップの皆さんから熱量をもらって、今度は自分も社内起業家として応募するという好循環が生まれたりもしています。
社内起業家プログラムだけ、スタートアップ募集型プログラムだけのプログラムであれば、共創に関わる担当部門以外の社員にはスタートアップの皆さんとの距離があると思います。
社内と社外のプログラムを同時に開催することで、多様な文脈が生まれ、巻き込む関係者を増やすことができると考えています。
ー貴社の社員にもスタートアップの熱量が伝播していくのですね。
生澤様:
会社に所属していると、まず上位方針に沿って部分最適に動いていくというスタイルが通常かと思いますが、スタートアップの皆さんはすべてを自分自身で決めていきます。
描いていらっしゃる未来がそれぞれに素晴らしく、壮大なものばかりで、「どうやって実現に向かっていくのだろう?」と私には想像がつかなかったりもするのですが、プログラム期間にご一緒させていただく際に垣間見えるスタートアップの皆さんの行動量と熱量が本当に凄まじく、それがプログラムに関わった社員にも着実に伝播していると感じます。
ーSTARTUP DB導入を検討されたきっかけと評価ポイントについて教えてください。
生澤様:
TRIBUSを続けていく中で、今まで出会えていなかったスタートアップとの方々にお会いするために、既存の方法ではない新しい方法を探していたのがきっかけです。
評価したポイントとしては、スタートアップの掲載社数が多かったことです。
TRIBUSは募集領域も毎年変わりますので、様々な領域のスタートアップを掲載していることは非常に重要でした。

■株式会社リコー 未来デザインセンター TRIBUS推進室 小柳 篤史様
大学卒業後、株式会社リコーに入社。リコー製品に搭載される電装部品の生産準備や基板のレイアウト設計を経て、複合機の原価企画に従事。また、社内副業制度を活用し、大企業間での共創活動による新サービス検討やスタートアップ探索、少額出資検討に携わる。2024年4月よりTRIBUS推進室に兼務。
小柳様:
加えて、スタートアップとの商談設定支援が魅力的でした。
TRIBUSに募集して欲しいスタートアップをSTARTUP DBの営業担当の方に選定してもらい、そのままプログラム募集までお声がけ頂いています。
STARTUP DB経由でお声がけ頂くことで、今までは出会えなかったスタートアップからの応募もありました。
生澤様:
今までもプログラム運営において様々なステークホルダーの方とご一緒してきたのですが、私たち運営メンバー以外の視点からプログラムを客観的に見てもらうのは非常に価値があります。
STARTUP DBの営業担当の方から「このスタートアップもプログラムのテーマに合っていませんか?」という形でこちらの視野を広げるようなご提案を頂くことができたのは非常にありがたかったです。
アクセラレーションプログラムは、濃く短い期間を過ごすことで、偶発的に発生する協業の機会が多くあります。
スタートアップの発掘や選定は、私たちの視点だけではなく、多様な視点を今後も取り入れていきたいです。
ー普段の業務において、STARTUP DBのどのような情報を閲覧していますか?
生澤様:
主にプログラム応募締め切り後の書類審査のタイミングで使用しています。
今年は約250件のスタートアップの皆さんからご応募があり、運営メンバーは短期間で多くの審査をしなければならないスケジュールでした。
STARTUP DBを導入する前は、1社ずつ個別にホームページ等で各社の情報を調べていましたが、導入後には「企業概要/ファイナンス情報」などがまとまっているため、審査にかかる時間を大幅に削減することができました。
小柳様:
過去の採択企業の情報をキャッチアップすることができるのも、非常に便利です。
7年間の活動の中で、TRIBUSの採択企業数は50社以上になるので、採択企業のプログラム終了後の現状をキャッチアップするのに工数がかかっていました。
そこで毎週のニュースサマリやフォロー機能を使って、プログラム終了後に資金調達や事業提携の動きがないかを確認しています。

生澤様:
STARTUP DBでは、経営陣のメンバー構成や過去のアクセラプログラムの参加実績などもよく見させていただきます。
プログラムへの応募書類だけではわからない各社の強みや特徴をより推察しやすくなるため、スタートアップの皆さんと弊社の双方における期待値のギャップを減らし、プログラム期間をより充実した時間にすることに繫がると思っています。
ーありがとうございます。最後に今後の展望を教えてください。
森久様:
リコーだけのスタートアッププログラムに止まらず、他社のCVC・事業会社の方も巻き込んだコンソーシアムのようなことができたら良いと思っています。
リコー×スタートアップだけではなく、リコー×他社の事業会社×スタートアップといった座組で、より大きな新しいビジネスができるのではないかと考えています。
小柳様:
リコーの社内起業家が、他社の社内起業家の方と交流するのも良いかなと思っています。
そこで出たアイディアを再度TRIBUSや他のプログラムに応募したりと、リコーとスタートアップに止まらない輪を広げていってもらいたいですね。
そういった偶発的に生まれるアイディアが増えるような仕組みづくりをしていきたいです。
生澤様:
当社の会長が「TRIBUSは生き物だ」と話していたことがあります。
この表現通り「TRIBUSはこうである」と型化してしまうのは良くないのだと捉えています。
審査業務など、定常的に発生する業務はSTARTUP DBを使いながら効率化していきますが、挑戦できる部分は非効率でも新しいことをやっていこうと考えています。

取材・執筆:久保田 裕也(フォースタートアップス株式会社)
写真:佐々木 航平(フォースタートアップス株式会社)